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MMT入門:従来の経済学とここが違う! MMTが考える経済の基本的な仕組み

Tags: MMT, 経済学, 貨幣論, 財政政策, 政府の役割

従来の経済観念とMMTの視点

経済ニュースを見ていると、「国の借金が増えて大変だ」「プライマリーバランスを黒字化しないと財政破綻する」「税金を集めてからでないと政府はお金を使えない」といった話をよく耳にするのではないでしょうか。これらの考え方は、多くの人がこれまでの経済学や日々の生活を通じて自然に身につけてきた経済観念に基づいています。

しかし、現代貨幣理論(MMT)は、こうした従来の経済観念とは根本的に異なる視点を持っています。なぜMMTは「財政赤字は悪くない場合がある」「政府は税金を集める前にお金を使える」といった主張をするのでしょうか。それは、MMTが「お金」や「経済」の仕組みを、従来の考え方とは別の角度から捉えているからです。

この記事では、MMTが従来の経済学とどのように違うのか、その基本的な考え方の違いについて分かりやすく解説します。

従来の経済学でイメージされやすい「お金」と「経済」

まず、多くの人が無意識のうちに抱いている経済観念について考えてみましょう。これは、必ずしも特定の学派に厳密に定義されたものではなく、一般的なイメージとして捉えてください。

お金は「物々交換の不便を解消する道具」

従来の一般的なイメージでは、お金は「物々交換」が難しいために生まれた便利な道具、つまり「交換手段」として捉えられがちです。魚と野菜を直接交換するのは大変だから、一度お金という共通の価値基準を介して交換する、という考え方です。

政府の財政は「家計のお財布」と同じ?

そして、政府の財政も、私たち個人の家計や企業のお金の使い方と同じように考えられがちです。つまり、

というイメージです。税金は政府にとっての「収入」であり、政府はこの収入がないとお金を使えない、と考えられています。

この考え方は、身近な経験に基づいているため非常に分かりやすく、多くの人にとって自然なものに感じられます。国の財政赤字を「将来世代へのツケ」と表現されるのも、借金は返す必要がある、という私たちの個人的な経験に基づいています。

MMTが考える「お金」と「経済」の基本的な仕組み

では、MMTは「お金」や「経済」をどのように捉えているのでしょうか。その視点は、従来の一般的なイメージとは大きく異なります。

お金は「政府の負債」であり、「租税を消滅させる手段」

MMTが考えるお金の最も重要な側面は、「政府が税金の支払いを要求することで、その価値が保証される負債(主権通貨)」であるという点です。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、これはどういうことでしょうか。

政府は「この国の税金は円で払いなさい」と定めます。国民や企業は税金を払うために円を手に入れる必要があります。この「税金の支払い手段として強制的に価値を持つ」という性質が、円という通貨の根源的な価値を裏付けている、とMMTは考えます。

つまり、お金は単なる交換手段として自然発生したものではなく、政府が徴税権を行使するために発行し、その税金支払いを義務付けることで流通し、価値を持つようになったものである、という見方です。

そして、税金が納められると、そのお金は政府にとっては「負債の消滅」を意味し、銀行システムの中でも特別な処理がなされると考えます。(税金が集められて「貯まる」のではなく、ある意味で「消滅する」というイメージです。)

この「お金は政府の負債であり、税金を支払うための道具」という視点が、従来の「お金は交換手段」という視点とは根本的に異なります。

政府は「通貨の発行者」、家計は「通貨の使用者」

従来の経済観念では、政府も家計も同じようにお金を使う存在だと見なされがちです。しかし、MMTは「通貨の発行者」と「通貨の使用者」を明確に区別します。

政府は通貨の発行者であるため、家計のように「まず収入(税金)を得てから支出する」という制約を受けません。理論的には、政府は必要な支出を行うために、通貨を「発行」することができます。この際、税金を集める必要はありませんし、誰かから「借りる」必要もありません。

では、なぜ政府は国債を発行するのでしょうか? MMTでは、国債の発行は政府が支出するための「資金調達」ではなく、主に市中から余分な円(銀行預金)を吸収し、金利を管理するために行われると考えます。政府がお金を使うプロセスと国債発行のプロセスは、従来考えられていた「税金→国債発行→支出」ではなく、別の順序で捉えられます。

経済の目的は「財政バランス」ではなく「実体経済の最大活用」

従来の経済観念では、「国の財政は健全であるべき」「借金は少ない方が良い」といった財政収支のバランス自体を重要な目標と見なす傾向があります。

しかし、MMTは、経済の本当の目的は「財政バランスを保つこと」ではなく、その国が持つ「実体経済」(人、モノ、サービス、技術など)を最大限に活用し、完全雇用や豊かな社会を実現することにあると考えます。

政府支出や税金といった財政政策は、この実体経済を目標とするための手段であるべきだと考えます。もし経済にまだ活用されていない人手や資源があるならば、政府が通貨を発行してそれらを活用する(例えば公共事業を行う、就業保証プログラムを実施するなど)ことで、経済全体を活性化させ、国民生活を向上させることができる、とMMTは主張します。

財政赤字は、この実体経済の目標を達成する過程で発生しうるものであり、それ自体が悪なのではなく、その支出によって経済がどうなったかが重要である、という視点です。

まとめ:視点の違いがもたらす経済の捉え方

MMTと従来の一般的な経済観念の最も大きな違いは、以下の点に集約されます。

これらの基本的な視点の違いが、国の借金、財政赤字、税金の役割、政府支出といった様々な経済現象に対する解釈を大きく変えるのです。

MMTの視点を持つことで、これまで当然だと思っていた経済ニュースや国の政策に対する疑問が解消されたり、全く別の角度から物事を考えられるようになるかもしれません。MMTはあくまで一つの経済理論ですが、この独特な視点を知ることは、現代経済をより深く理解するための一助となるでしょう。