MMT入門:経済ニュースがもっと分かります! MMTの視点で読み解く方法
経済ニュース、その報道をどう受け止めていますか?
日々、テレビやインターネットで目にする経済ニュース。国の財政赤字が増えている、政府の借金が過去最大になった、少子高齢化で社会保障の「財源」が足りない、といった報道をよく見かけます。
「国の借金が増えて大変だ」「このままだと将来世代にツケが回るんじゃないか」「どうやってこのお金を返すんだろう」――多くの方が、こうした報道に不安を感じたり、疑問を持ったりしているのではないでしょうか。
こうした報道の背景には、一般的に広く共有されている「経済の常識」があります。しかし、現代貨幣理論(MMT)の視点から見ると、これらの「常識」とは異なる角度から経済や財政の仕組みを理解することができます。
MMTの基本的な考え方を踏まえることで、普段見ている経済ニュースが全く違って見えてくるかもしれません。この記事では、MMTの視点から経済ニュースを読み解くためのヒントをご紹介します。
ニュース報道に隠された「従来の経済観念」
多くの経済ニュースは、暗黙のうちにいくつかの前提に基づいて構成されています。それは、私たちが日常生活で経験する「家計のやりくり」に似た考え方であることが少なくありません。
例えば、「政府はお金を使うためには、まず税金を集めたり、借金(国債発行)をしたりして『財源』を確保しなければならない」という考え方です。これは、私たちがお金を使う際に、給料を得たり、ローンを組んだりする必要があるのと似ています。
また、「国の借金が増えすぎると、いつか返せなくなり破綻する」「借金が増えると、将来世代がその負担を強いられる」といった報道も、家計の借金が返済能力を超えると大変なことになる、という感覚に基づいています。
MMTが示す「主権通貨国」の現実
しかし、MMTが指摘するのは、自国で通貨を発行できる主権国家の財政は、家計や企業、地方自治体の財政とは根本的に仕組みが異なるということです。
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お金を生み出すのは誰か? MMTでは、自国通貨を発行する政府は、お金を「集める」のではなく、支出を通じて「生み出す」ことができると考えます。政府が何かを購入したり、給付金を支払ったりする際には、その対価として通貨が発行され、受け取った側の銀行口座に預金として記録されます。これは、お金がどこかから「調達」されてくるのではなく、政府の支出という行為そのものが、経済にお金(銀行預金という形)を供給する過程であることを意味します。 これをイメージすると、政府の支出によって、民間の銀行にある政府の日銀当座預金が減り、同時にその支出を受け取った側の民間銀行の預金口座が増える、という流れになります。(図解をイメージ:政府→銀行→民間のようなお金の流れを示す図)
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税金の役割は「財源」ではない 多くのニュースでは、政府の支出には「税金という財源が必要だ」と報道されます。しかしMMTでは、税金は政府がお金を使うための「財源」ではなく、インフレ抑制、通貨価値の維持、所得格差の是正といった、経済を調整するためのツールであると考えます。税金は、民間部門からお金を「消滅」させることで、経済全体の需要を調整する機能を持っています。政府が支出によって生み出したお金の一部を、税金として回収し、経済から「消す」イメージです。(図解をイメージ:支出でお金が増える様子、税金でお金が減る様子を示す図)
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国の借金(国債)の異なる側面 ニュースで「国の借金」として問題視される国債は、MMTの視点では、政府が将来の税収で返済するもの、というよりは、民間部門が持つ政府に対する「資産」であると捉えられます。自国通貨建ての国債であれば、政府はいつでも自国通貨を発行して返済する能力があります。したがって、返済能力そのものが問題になることはなく、破綻するという事態は考えにくい、とMMTでは考えます。 ニュースで「借金」と聞くとネガティブなイメージが先行しますが、政府の負債は民間(私たちや企業、銀行など)の資産であることを理解すると、その見え方が変わってきます。(図解をイメージ:政府の負債=民間の資産、という関係を示す図)
MMTの視点で見える「本当の制約」
従来の経済報道が「財源」や「借金の返済」といった金融的な側面に焦点を当てがちなのに対し、MMTが重視するのは「実体経済」の制約です。
政府がお金を使うことができる真の限界は、「財源があるかないか」ではなく、「その支出によって国のモノやサービスを生み出す能力(人、設備、資源など)を超えてしまうか」という点にあります。
例えば、インフラ整備に大規模な政府支出を行うとします。もし、必要な労働力や建設資材に十分な余力があれば、支出によって生産が増え、経済全体が活性化します。しかし、もし労働力や資材がすでにフル稼働に近い状態であれば、政府が支出を増やしても、モノやサービスが増えるのではなく、価格が上昇してしまう可能性があります。これが「インフレ」です。
MMTの視点では、経済ニュースを見る際に、単に「財源があるか」「借金が増えたか」だけでなく、以下の点に注目することが重要になります。
- インフレの兆候はあるか? 経済全体で物価が上昇し始めていないか、特定のモノやサービスの価格が急騰していないか、といった点です。インフレは、政府支出が実体経済の生産能力の限界に近づいているサインとなり得ます。
- 国内の資源(人、設備、技術など)に余力はあるか? 例えば、失業率が高い状況であれば、まだ十分に活用されていない労働力という資源に余力があると考えられます。工場や設備の稼働率が低い場合も同様です。こうした余力があれば、政府支出によって生産を増やし、インフレを起こさずに経済を成長させる余地が大きいと判断できます。
ニュースで政府の経済対策が報じられたとき、「この政策に必要な人手やモノは国内に十分にあるだろうか?」「この政策はインフレを加速させるリスクがあるだろうか?」といった視点で考えてみると、よりMMT的な見方に近づくことができます。
まとめ:ニュースの「当たり前」を問い直す視点
MMTは、これまでの経済に関する「当たり前」を問い直し、お金や財政の仕組みをより現実に即して理解するための新しい視点を提供してくれます。
経済ニュースで「財源」「借金」「破綻」といった言葉を聞いたとき、すぐに不安を感じるのではなく、一度立ち止まって考えてみてください。
- 政府は家計と同じだろうか?
- 税金は本当に支出のための「財源」なのだろうか?
- 国の借金は、私たち個人の借金と同じ意味合いだろうか?
- この政策は、国内の物や人の「余力」を活用するものだろうか? それともインフレを招く可能性があるものだろうか?
MMTの基本的な考え方を知ることで、経済ニュースの表面的な情報だけでなく、その背景にある仕組みや、本当に注目すべき点が見えてくるはずです。これは、複雑な現代経済を理解し、自分の頭で考える上で、きっと役立つでしょう。