MMT入門:財政破綻ってどういう状態? MMTが考える破綻の定義
はじめに:国の借金が増えると「財政破綻」するの?
国の財政に関するニュースを見ていると、「国の借金が過去最大になった」「このままでは財政が破綻する」といった言葉を耳にすることがあります。多くの方が、「財政破綻」と聞くと、まるで家計が借金で立ち行かなくなるように、国がお金を使えなくなり、国民生活に深刻な影響が出るとイメージするのではないでしょうか。
では、MMT(現代貨幣理論)では、この「財政破綻」という状態をどのように捉えるのでしょうか? MMTは、自国通貨を発行できる政府の財政に関する考え方が、家計とは根本的に異なると説いています。この記事では、MMTの視点から見た「財政破綻」とはどういうことなのか、その定義と、MMTが考える「国が本当に直面しうる問題」について分かりやすく解説していきます。
一般的にイメージされる「財政破綻」とは
私たちが一般的に「財政破綻」と聞いてイメージするのは、概ね以下のような状況かもしれません。
- 借金が返せなくなる(デフォルト): 国が発行した国債の利払いや償還ができなくなり、お金を借りられなくなる状態。
- お金の価値がなくなる(ハイパーインフレ): 通貨が大量に供給されすぎて、物価が異常に高騰し、その通貨で何も買えなくなる状態。
- 政府サービスが停止する: 借金返済のために医療や年金、公共サービスへの支出が極端に削減される、あるいは停止してしまう状態。
これらのイメージは、過去に実際に起きた特定の国の事例や、家計や企業の破綻のイメージを政府に当てはめたものに基づいていることが多いでしょう。
MMTが考える「自国通貨建て債務の破綻」は起こらない理由
MMTの最も基本的な考え方の一つに、「自国通貨を発行できる政府は、自国通貨建ての債務で破綻(債務不履行)することはない」というものがあります。これは、政府が「お金の作り手」だからです。
どういうことかと言いますと、日本政府は「円」を発行することができます。もし日本政府が円建ての国債の償還や利払いが必要になったとしても、技術的には必要なだけの円を中央銀行(日本銀行)の協力を得て作り出し、支払うことが可能です。
銀行のシステムをイメージすると、より分かりやすいかもしれません。政府が支出を決定すると、中央銀行が政府の口座から相手の銀行口座に数字を振り込みます。これは、政府にとっては負債(国債など)であっても、支払うために必要な円という数字は、文字通り「キーを叩けば発生する」ものなのです。
このため、MMTでは、日本のように自国通貨を発行し、その通貨建てで借金をしている国が、「お金がないから借金が返せない」という理由で債務不履行に陥ることは考えられない、とします。
では、MMTが考える「国が直面しうる深刻な問題」とは何か?
MMTは自国通貨建て債務の不履行による破綻はないと考えますが、それは政府がお金をいくらでも無制限に使えるという意味ではありません。MMTが考える「国が直面しうる深刻な問題」は、お金そのものの制約ではなく、「実体経済の能力」と「物価の安定」に関する問題です。
MMTが重視する本当の制約は、国内にある人やモノ、サービス、技術といった「実体資源」に限りがあることです。
例えば、政府がインフラ整備のために大規模な支出を増やしたとします。これによって、建設に必要な労働力や資材に対する需要が急増します。もし、これらの資源に十分な余裕がない(例えば、建設作業員が足りない、セメントや鉄鋼の生産能力が限界に近い)状況であれば、資源の取り合いが起こり、価格が上昇します。これがインフレです。
MMTが考える「国が本当に直面する問題」とは、まさにこの制御不能なインフレです。政府が実体経済の能力を超えて支出を続けると、供給が追いつかなくなり、物価が急速に上昇するインフレが発生します。 extreme なケースでは、通貨の価値が著しく損なわれるハイパーインフレに繋がり、国民生活や経済活動が成り立たなくなってしまう可能性もあります。
MMTは、政府の支出を制限すべきなのは、「財源がないから」ではなく、「インフレを引き起こすほど実体資源に余裕がなくなるから」だと考えます。つまり、「財政破綻」とは「お金がない状態」ではなく、「実体経済が悲鳴を上げている状態(特にインフレ)」であり、それによって政府が目的(国民生活の向上など)を達成できなくなることである、とMMTは捉えていると言えるでしょう。
図にすると、従来の考え方では「国の借金増加 → 財政破綻(お金がなくなる)」という直線的なイメージですが、MMTでは「政府支出 → 実体資源への需要増 → (資源に余裕がない場合)インフレ発生 → (制御不能な場合)深刻な経済問題」という、お金そのものよりも実体経済の動きに焦点を当てたイメージになります。
MMTの視点から見た「財政の健全性」
このように、MMTでは財政の健全性を判断する際に、借金の残高そのものよりも、「その支出が経済全体のインフレを引き起こしていないか」「実体経済の能力を最大限に引き出し、国民生活を向上させることに貢献しているか」といった点に着目します。
借金残高が多いか少ないかではなく、その支出がもたらす経済への影響、特にインフレリスクを適切に管理できているかどうかが、MMTにおける重要な指標となります。インフレリスクが高まれば、政府は支出を減らすか、増税などの手段で市中から通貨を吸収し、総需要を抑える必要があると考えます。税金は、政府の支出の「財源」ではなく、主にインフレ抑制の手段として機能する、というのがMMTの基本的な考え方です。
まとめ:MMTが考える「破綻」は実体経済の機能不全
今回は、MMTが考える「財政破綻」の定義について解説しました。
- 一般的にイメージされる「財政破綻」は、家計や企業と同様に「お金がなくなって借金が返せなくなる」という状態を指すことが多いです。
- しかし、MMTでは、自国通貨を発行できる政府は、自国通貨建ての債務不履行は起こさないと考えます。
- MMTが考える「国が直面しうる深刻な問題」は、お金の枯渇ではなく、実体経済の供給能力を超えた需要による制御不能なインフレです。
- したがって、MMTにおける「財政の健全性」は、借金残高ではなく、インフレリスクを適切に管理できているか、実体経済の能力を最大限に活用できているかによって判断される、と言えます。
国の財政に関するニュースや議論を見る際に、従来の「家計のお財布」に例えた見方だけでなく、MMTのような「お金の作り手」としての政府の視点、そして「実体経済の能力」という別の制約に着目してみると、より深く理解できるようになるかもしれません。