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MMT入門:政府と銀行はこうしてお金を作る! 貨幣創造の具体的な仕組みと違い

Tags: MMT, 貨幣創造, 政府支出, 信用創造, 銀行, 中央銀行, お金の仕組み, 財政政策

あなたが使うお金は、どこからやってくるのでしょうか?

私たちは日々の生活で「お金」を使っています。給料を受け取り、買い物をし、税金を納めます。当たり前のように使っているお金ですが、「このお金は一体どこから生まれるのだろう?」と考えたことはありますか?

ニュースなどを見ていると、国がお金を使う話(財政支出)や、銀行が企業や個人にお金を貸す話が出てきます。政府も銀行も、どうやらお金を生み出しているように見えます。

しかし、政府がお金を生み出す仕組みと、銀行がお金を生み出す仕組みは、実は似ているようで本質的に異なるものです。そして、現代貨幣理論(MMT)は、この違いを理解することが、現代の経済や財政を正しく捉える上で非常に重要であると考えます。

この記事では、政府(正確には政府と中央銀行)と市中銀行(皆さんが利用する一般的な銀行)が、それぞれどのようにしてお金を生み出しているのか、その具体的な仕組みとMMTが注目する違いを分かりやすく解説していきます。

お金を生み出す二つのルート

現代の経済において、私たちがお金として認識し、使っている「円」という通貨は、大きく分けて二つのルートから生み出されます。

  1. 政府と中央銀行によるお金の供給

    • 国の支出によって、経済全体にお金が供給されます。
    • 政府が支出を決定し、そのお金が最終的に私たち民間部門(企業や個人)の銀行口座に振り込まれる過程で、新しいお金が生まれます。
    • MMTはこのプロセスにおける政府の役割を特に重視します。
  2. 市中銀行によるお金の創造(信用創造)

    • 皆さんが利用する銀行が、企業や個人に融資を行う際に、新しい預金(お金)を生み出します。
    • これは一般的に「信用創造」と呼ばれる仕組みです。

これらの二つのルートは、どちらも私たちがお金として認識する「預金」を増やしますが、その背後にある仕組みや性質、そして制約が異なります。

政府(中央銀行)がお金を生み出す仕組み:支出と預金操作

政府がお金を使うとき、「税金を集めてから使う」というイメージを持っている方が多いかもしれません。しかし、自国通貨を発行できる政府の場合、話は少し違います。

MMTの考え方では、政府が支出をする際、事前に税金や国債発行で「財源」を確保する必要はありません。政府は、支出をすること自体によって、民間部門の銀行預金を増やすという形で、新しいお金を供給することができます。

具体的なイメージとしては、以下のようなステップで行われます。

  1. 政府が支出を決定する: 公共事業や社会保障費など、政府が何らかのサービスを購入したり、給付を行ったりすることを決めます。
  2. 政府が中央銀行に指示する: 政府は、自らが持つ中央銀行(日本では日本銀行)の口座から、支払い先の銀行の口座へお金を移すよう、中央銀行に指示を出します。
  3. 中央銀行が預金口座を操作する: 中央銀行は、指示を受けて以下のような会計操作を行います。
    • 支払い先の銀行が中央銀行に持つ「準備預金(日銀当座預金)」という口座の残高を増やします。
    • 同時に、支払い先の銀行が、支払いを受ける企業や個人の預金口座の残高を増やします。

このプロセスをよく見ると、政府は「誰かの預金からお金を引き出して使う」のではなく、中央銀行と協力して、民間銀行の「準備預金」と、私たち企業・個人の「預金口座」に新たな数字を書き込むことで支出を行っていることがわかります。

これをあたかも、政府が持っている特別な「お金のプリンター」を使っているかのように表現する人もいますが、実際には複雑な会計上の操作です。しかし、その結果として、経済全体に存在する銀行預金の総額が増える、つまり新しいお金が生まれる、という事実は変わりません。

(これを図にすると、政府が中央銀行の口座から指示を出し、それを受けて中央銀行が民間の銀行の準備預金を増やし、その銀行が最終的な受取人の預金口座に数字を書き込む流れになります。)

税金は、この逆のプロセスです。私たちが税金を納めると、私たちの銀行預金が減り、政府の口座を通して中央銀行の準備預金も減る、つまり経済全体のお金が「消滅する」とMMTでは考えます。税金は支出の「財源」ではなく、政府が創造したお金の一部を経済から引き揚げ、通貨の価値を維持し、インフレを抑制するための手段なのです。

市中銀行がお金を生み出す仕組み:信用創造

一方、皆さんが普段利用している銀行(メガバンクや地方銀行など)もお金を生み出しています。これは「信用創造」と呼ばれる仕組みです。

銀行が誰かに融資をする時、多くの人は「銀行が預金者から集めたお金を貸している」と思いがちです。しかし、これも少し違います。

銀行は、融資を実行する際に、借り手の銀行口座にその金額の預金を新たに作り出すことによってお金を生み出します。

具体的なステップは以下の通りです。

  1. 企業や個人が銀行に融資を申し込む: 事業資金や住宅ローンなど、お金を借りたい人が銀行に申し込みをします。
  2. 銀行が融資を承認する: 銀行は審査を行い、融資を承認します。
  3. 銀行が借り手の預金口座に記帳する: 銀行は、借り手自身の預金口座に、融資額と同じ額をプラスして記帳します。この時、銀行はどこかからお金を「持ってきて」いるわけではなく、単にコンピュータ上の数字(預金記録)を増やしているのです。
  4. 銀行のバランスシートが変化する: 銀行の資産の部に「貸出金」が増え、負債の部に「預金」が増える、という形でバランスシートが拡大します。

(これを図にすると、銀行が融資を行う矢印の先に、借り手の預金口座という箱があり、そこに融資額が追加されるイメージです。銀行の資産と負債が同時に同額だけ増加する図も分かりやすいでしょう。)

このように、市中銀行は「融資」という行為を通じて、新しい預金(お金)を生み出します。これが信用創造です。銀行が創造するお金は、中央銀行が発行する「準備預金」や「現金」といった基軸通貨とは異なり、あくまで「銀行に対する債権(いつでも引き出せる権利)」としての預金です。しかし、私たちはこの預金を、現金と同じように支払いに使うことができます。

MMTが注目する、政府と銀行の貨幣創造の違い

政府と銀行、どちらも「預金という形のお金」を生み出すように見えますが、MMTはこの二つの間に本質的な違いがあると指摘します。

主な違いは以下の点です。

  1. 生み出すお金の「種類」が違う:

    • 政府(中央銀行): 通貨の発行者として、最終的に全ての円建て取引の決済に使われる基軸通貨(中央銀行の準備預金や現金)を供給する役割を持ちます。政府の支出は、この基軸通貨の量や、それを裏付けとする民間銀行の預金を直接的に増やします。
    • 市中銀行: 政府(中央銀行)が供給した基軸通貨をベースに、信用(預金)を生み出します。銀行預金は、最終的には中央銀行の準備預金や現金と交換されることで価値が保証されます。つまり、銀行の信用創造は、政府と中央銀行による貨幣供給の上に成り立っています。
  2. 生み出す上での「制約」が違う:

    • 政府(自国通貨建ての債務を持つ政府): MMTによれば、政府がお金を生み出す(支出する)上での究極的な制約は、お金そのもの(財源)ではなく、経済に存在する「実際の資源(人、モノ、サービス)」です。もし政府が経済全体の生産能力を超えてお金を使いすぎると、需要が供給を上回り、インフレーション(物価上昇)が発生します。このインフレこそが、政府支出の事実上の限界となります。
    • 市中銀行: 銀行が信用創造を行う際の制約は多岐にわたります。最も大きいのは、借り手の返済能力(需要)です。誰も借りたい人がいなければ、銀行は貸し出せません。その他にも、中央銀行から供給される準備預金の量(これは中央銀行の金融政策で調整されます)、自己資本比率規制などの様々な規制、そして適切な融資先を見つける能力などが制約となります。銀行はインフレを直接的に制御する責任は持ちません。
  3. お金を生み出す「目的」が違う:

    • 政府: 公共の利益(国民の福祉向上、インフラ整備、完全雇用、物価安定など)を達成することを目的として支出(貨幣創造)を行います。
    • 市中銀行: 企業活動として、利息収入を得るなど自らの利益を追求することを目的として融資(信用創造)を行います。

なぜこの違いの理解がMMTでは重要なのか?

MMTが政府と銀行の貨幣創造の違いを強調するのは、それが現代経済における政府の役割と能力を理解する鍵となるからです。

従来の経済観念では、政府も家計や企業と同じように「収入(税金や借金)」の範囲でしか支出できないと考えられがちでした。しかしMMTは、自国通貨の発行者である政府は、税金を集めることなく、必要に応じてお金(預金)を生み出すことができるという、貨幣創造のメカニズムに注目します。

これは「政府は何でも無限にお金を使える」という意味ではありません。先述のように、実際の資源やインフレという厳しい制約は存在します。しかし、「財源がないから良い政策ができない」という考え方に対して、「政府はお金を生み出せるのだから、必要な支出はできるはずだ。問題は財源ではなく、その支出がインフレを引き起こさないか、有効な資源活用につながるかだ」と問い直す視点を提供します。

また、市中銀行による信用創造は、あくまで銀行の利益と借り手の需要に依存します。そのため、例えば不況時には借り手がいなくなり、銀行の貸出(=信用創造)が滞り、経済全体のお金の供給が減ってしまうことがあります。MMTは、このような場合に、政府が積極的に支出(貨幣創造)を行うことで、経済全体の需要を創出し、お金の供給を安定させることが重要であると考えます。

つまり、政府と銀行、それぞれの貨幣創造の仕組みと役割を理解することで、政府が財政政策を通じて経済を安定させ、公共の目標を達成するためにどのような能力を持っているのか、MMTの視点からより深く理解することができるのです。

まとめ

この記事では、政府(中央銀行を含む)と市中銀行が、それぞれ異なる仕組みで「お金」を生み出していることを解説しました。

MMTは、この二つの貨幣創造の違いを明確にすることで、政府が持つ財政的な能力、すなわち自国通貨を発行できる政府は「財源」の制約ではなく「インフレ」の制約のもとで、公共の利益のために必要な支出を行うことができるという考え方を提示しています。

お金がどこから来て、どのように経済を巡るのか。この基本的な仕組みを理解することは、MMTだけでなく、現代経済全体を理解する上での第一歩となるでしょう。