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MMT入門:金利をどう考えればいい? MMTが見る金融政策の役割

Tags: MMT, 金融政策, 金利, 中央銀行, 財政政策

はじめに:金利って一体何だろう?

私たちは日々、銀行預金の金利や住宅ローンの金利、あるいは経済ニュースで「政策金利」といった言葉を耳にします。金利が高くなると景気が冷え込む、低くなると景気が良くなる、といった解説もよく目にします。金利は、お金の流れや経済の動きを理解する上で非常に重要な要素であるかのように思えます。

しかし、MMT(現代貨幣理論)は、この金融政策、特に金利について、従来の経済学とは少し異なる、あるいはその役割に限界があるという見方をしています。この章では、MMTが金融政策、特に金利をどのように捉えているのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

金利は「市場で決まるもの」ではない? MMTの視点

一般的な経済の解説では、金利は資金の貸し借りにおける「需要と供給」で決まる、と考えられがちです。資金を借りたい人が多ければ金利は上がり、貸したい人が多ければ金利は下がる、というイメージです。

しかし、MMTは少し違った視点を持っています。MMTでは、自国通貨を発行できる政府(またはその指示を受けた中央銀行)にとって、金利は基本的に政策的に設定されるものであると考えます。

なぜなら、中央銀行は銀行が持つ「準備預金」(中央銀行の当座預金のようなもの)をコントロールできるからです。中央銀行は、この準備預金を増やしたり減らしたり、あるいは準備預金に対して金利(政策金利)をつけたりすることで、短期金利に強い影響力を行使できます。

例えば、中央銀行が「明日から政策金利を0.1%にします」と発表すれば、多くの銀行間の短期的な資金の貸し借りである「コール市場」の金利は、その政策金利に張り付くことになります。中央銀行が、その金利で資金を供給または吸収するからです。

これを図にすると、中央銀行がまさに「金利の番人」として、望む水準に短期金利を誘導している様子がイメージできるでしょう。市場の力だけで決まるというよりは、中央銀行の明確な意思決定によって、主要な金利が決まっているのです。

金利が高いと何が起きる? MMTの考える金利の影響

MMTは、金利の上昇が必ずしも経済に良い影響を与えるとは限らないと考えます。一般的な経済論では、金利上昇はインフレを抑える効果があるとされますが、MMTはそれに加えて、以下のような側面も強調します。

  1. 政府の利払い負担増加: 自国通貨建てで国債を発行している政府にとって、金利が上昇すると、その「借金」にかかる利払い負担が直接的に増加します。これは政府支出の一部となり、経済に資金供給することになります。つまり、金利上昇は必ずしも経済全体の資金を冷え込ませるだけでなく、政府経由でお金が供給される側面もあるのです。

  2. 一部の貯蓄者には有利だが、大多数には不利: 金利が上がると、預貯金をしている人は受け取る利息が増えるかもしれません。しかし、企業は設備投資の際の借入コストが増え、家計は住宅ローンなどの返済負担が増加します。経済全体で見れば、お金を借りて活動している企業や家計の方が圧倒的に多いため、金利上昇はむしろ経済活動を抑制する方向に働くことが多いとMMTは考えます。

  3. 資産価格への影響: 金利上昇は、株式や不動産などの資産価格を下落させる要因となります。これも経済活動や家計の心理にネガティブな影響を与えかねません。

MMTは、金利を引き上げることは、経済の「エンジン」である投資や消費に「ブレーキ」をかける行為であり、政府の利払い負担を増やし、格差を拡大させる可能性もある、と指摘することがあります。

金利操作の「限界」:本当に重要なのは何か?

MMTは、金融政策、特に金利の上げ下げだけで経済を大きく、持続的に操作することには限界があると考えます。

なぜでしょうか? MMTが考える経済の本当の制約は、「利用可能な資源」(人、モノ、設備など)であると以前の解説でも触れました。経済が過熱してインフレになるのは、お金がありすぎるからではなく、お金を使ってみんなが欲しがる「資源」に対して、それを生産・提供できる能力(供給力)が追いつかなくなっているからだと考えます。

金利をいくら操作しても、工場が増えたり、熟練の労働者が増えたり、新しい技術が生まれたりといった、供給能力そのものを直接的に増やす効果は限定的です。 金利操作は、せいぜい需要を一時的に冷やす効果しかなく、根本的な供給能力の問題を解決するものではありません。

また、現代のように金利が非常に低い、あるいはゼロに近い状況では、金利をこれ以上下げることができません(いわゆる「ゼロ金利制約」)。このような状況では、金融政策による景気刺激効果はほとんど期待できなくなります。

MMTがここで強調するのは、金融政策よりも財政政策(政府の支出や税金)の方が、経済、特に雇用や供給能力に直接的に働きかける強力な手段であるということです。政府が公共事業を行えば、物理的なインフラ(資源)が増えますし、研究開発に投資すれば、将来の生産能力(資源)が増える可能性があります。失業者を雇えば、これまで活用されていなかった人的資源を有効活用できます。

つまり、MMTは金利の役割を否定するわけではありませんが、その効果や影響範囲には限界があることを理解し、経済を安定させ、国民の生活を向上させるためには、金融政策だけでなく、財政政策をより戦略的に活用することが不可欠であると考えます。

まとめ:MMTが示す金融政策への新たな視点

この章では、MMTが金融政策、特に金利についてどのような考え方をしているのかを見てきました。

従来の経済解説で金利の役割が非常に大きく語られることが多い中で、MMTの視点は、金融政策の力には限界があり、財政政策の重要性を再認識させてくれるものと言えるでしょう。次回は、MMTの考える「就業保証プログラム」など、より具体的な政策提言について掘り下げて解説していく予定です。