MMT入門:国の借金(国債)って結局誰が買うの? その買い手が大事な理由
国の借金(国債)、結局誰が買っているのでしょうか?
国の財政状況を示すニュースなどで、「国の借金が増えている」「国債の発行残高が過去最大」といった情報を見聞きすることがあるかと思います。国の借金、すなわち国債は、政府が資金を調達する際に発行される債券です。では、この国債は一体誰が購入しているのでしょうか。そして、MMT(現代貨幣理論)では、この「買い手」についてどのように考えているのでしょうか。
今回は、MMTの視点から、国債の主な買い手と、なぜその「買い手」がMMTの議論において非常に重要な意味を持つのかを分かりやすく解説します。
国債の主な買い手とは?
まず、一般的な経済観念における国債の買い手を見てみましょう。国債は、政府が発行すると、主に以下のような主体が購入します。
- 国内の金融機関: 銀行、証券会社、保険会社などが、運用先として国債を購入します。
- 海外の投資家: 外国の政府系ファンドや中央銀行、機関投資家なども、日本の国債を購入することがあります。
- 年金基金など: 公的年金基金や企業年金基金なども、長期的な運用として国債を保有します。
- 個人投資家: 個人でも、個人向け国債などを購入することができます。
このように、市場で取引される国債は、国内外の様々な投資家が購入し、保有しています。そして、彼らが国債を購入するために支払ったお金が、政府の収入となります。
MMTが特に注目する「特別な買い手」:中央銀行
しかし、MMTでは、これらの一般的な買い手に加えて、「中央銀行(日本銀行)」が国債を購入する場合に、非常に重要な意味があると考えます。
中央銀行は、一般の銀行や企業、家計とは根本的に異なる存在です。なぜなら、中央銀行は「通貨発行権」を持つ主体だからです。政府(財務省)が国債を発行し、それを民間銀行などが購入する場合、政府は民間からお金(その国の通貨)を借りていることになります。これは、私たち家計が銀行からお金を借りるのに似ていると考える人もいるかもしれません。
しかし、中央銀行が国債を購入する場合は話が異なります。政府が発行した国債を中央銀行が購入する際、中央銀行はどのように代金を支払うのでしょうか?
中央銀行は、国債の買い取り代金を、政府が中央銀行に持つ「政府預金」口座に振り込みます。このとき、中央銀行は新たに通貨(厳密には、中央銀行当座預金という形で)を創造して政府預金に振り込むことができるのです。これを専門的には「マネタイゼーション」と呼ぶこともありますが、MMTの視点では、通貨発行権を持つ政府と中央銀行を一体として捉えた場合、これは政府が自ら通貨を生み出し、それを使って支出しているのと経済的な効果は同じだと考えます。
これを図にすると、以下のようになります。
- (一般的な場合)政府 → 国債発行 → 民間(銀行など) → お金 → 政府
- 民間が既に持っているお金が政府へ移動する
- (MMTが注目するケース)政府 → 国債発行 → 中央銀行 → 新たなお金(政府預金への振り込み) → 政府
- 中央銀行が新たに創造したお金が政府へ移動する
後者のケース、つまり中央銀行が国債を購入し、政府預金に振り込むという行為は、通貨発行権を持つ主体(政府と中央銀行の連結)が、自らの会計上での処理を通じて、支出に必要な「お金」を生み出しているとMMTは解釈します。
なぜ中央銀行が国債を買うことがMMTで重要なのか?
MMTでは、自国通貨建ての国債を発行する政府は、通貨発行権を持つため、財政的な制約(お金が足りなくなること)はないと考えます。そして、この主張を支える根拠の一つが、まさに中央銀行による国債の購入能力です。
もし、民間部門が何らかの理由で政府が発行する国債を十分に購入しなかったとしても、通貨発行権を持つ中央銀行が国債を購入することができます。これにより、政府はいつでも自国通貨での資金調達(支出に必要な「お金」の調達)が可能になります。
つまり、MMTの視点では、国の借金(国債)の買い手が誰であるか(特に中央銀行が買い手となり得るか否か)は、政府が支出を行う上での財政的な制約が存在するかどうかを考える上で決定的に重要になるのです。
家計や企業のように、自分で通貨を発行できない主体は、支出するためには収入を得るか、借り入れるか、貯蓄を取り崩すしかありません。しかし、自国通貨を発行できる政府は、必要であれば中央銀行を通じて通貨を生み出すことができます。国債を中央銀行が購入するというメカニズムは、この「通貨を生み出す」プロセスの一端を示しているとMMTは捉えるのです。
これは、多くの人が直感的に抱く「国の財政も家計と同じようなものだ」という感覚とは大きく異なります。家計は、銀行からお金を借りる際に「返済能力」を問われますが、自国通貨建ての国債を発行する政府は、通貨発行権がある限り、通貨建てでの返済能力を問われることはありません。(もちろん、インフレという別の制約はあります。)
このように、MMTでは、国債の「買い手」が誰であるか、特に中央銀行の存在と役割を理解することが、政府の財政能力や経済の仕組みを理解する上で不可欠だと考えます。
まとめ
今回の記事では、MMTの視点から、国の借金である国債の主な買い手と、特に中央銀行が買い手となる場合の意味について解説しました。
- 国債は、国内外の様々な主体が購入しますが、MMTは特に中央銀行の役割に注目します。
- 中央銀行は通貨発行権を持ち、国債購入代金を新たに創造した通貨(準備預金)で支払うことができます。
- これは、政府が支出に必要な資金を、通貨発行権を通じて調達できることを示しており、MMTが主張する「財政的な制約はない」ことの根拠の一つとなります。
- 国債の買い手が誰であるかを理解することは、通貨発行権を持つ政府と持たない家計や企業との違いを理解し、MMTの財政観を捉える上で重要です。
もちろん、政府の支出には「お金が尽きる」以外の制約が存在します。MMTが考える本当の制約については、別の記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせてお読みいただければ幸いです。
今回の内容が、国の財政とお金の仕組み、そしてMMTの考え方について理解を深める一助となれば幸いです。