MMT入門:なぜ政府は国債の金利を低く保てる? MMTの視点
国債の金利、どう決まるのだろう?
日々の経済ニュースで、「長期金利が上昇した」「国債の利回りがどうなった」といった報道を耳にする機会があるかと思います。私たちの身近な金利(例えば住宅ローンの金利など)にも影響するため、気になる方も多いのではないでしょうか。
一般的に、金利はモノやサービスのように需要と供給で決まる、つまり「市場が決めるもの」と考えられています。では、国債の金利も、買い手と売り手の市場原理だけで完全に決まるのでしょうか? そして、政府はこの金利に対して、どのような力を持っているのでしょうか? MMT(現代貨幣理論)は、この点について、従来の考え方とは異なる、興味深い見方を示しています。
今回は、MMTの視点から、政府が自国通貨建ての国債の金利をどのようにコントロールできるのか、そのメカニズムを分かりやすく解説していきます。
MMTが考える「金利コントロール」の可能性
まず、MMTの核心的な考え方の一つに、「自国通貨を発行できる政府は、その通貨建ての債務(借金)でデフォルト(債務不履行)することはない」というものがあります。これは、政府が通貨の「発行者」であるためです。
この「通貨発行者」としての政府の力は、国債の金利にも及びます。MMTでは、自国通貨建てである限り、政府(より正確には政府と一体とみなされる中央銀行、日本では日本銀行)は、国債の金利を意図的に、かつ非常に低い水準に保つ技術的な能力を持っていると考えます。市場の力学ももちろん存在しますが、最終的には中央銀行の意思と行動が、金利の決定に決定的な影響を与えるという視点です。
これは、政府が市場に「金利は〇〇%にしたい」と働きかけ、それが実現可能である、ということを意味します。
なぜ政府(中央銀行)は金利をコントロールできるのか?
では、具体的にどのような仕組みで、政府(中央銀行)は金利をコントロールできるのでしょうか。鍵となるのは、中央銀行の持つ「無限の通貨発行能力」と、それを使った「公開市場操作(オペレーション)」という手段です。
中央銀行は、銀行が持つ中央銀行当座預金(準備預金)という特殊な口座のお金を調整する能力を持っています。この準備預金の量が、金融市場における短期金利に大きな影響を与えます。
想像してみてください。銀行同士がお金を貸し借りする短期金融市場があるとします。ここで借り手が多い(お金が足りない)と金利は上がり、貸し手が多い(お金が余っている)と金利は下がります。
中央銀行は、この市場に「お金を供給したり」「お金を吸収したり」することで、準備預金の量を調整できます。そして、中央銀行には、理論上、いくらでも準備預金を供給する能力があります。なぜなら、中央銀行自身が、そのお金(準備預金)を生み出す通貨発行者だからです。
国債の金利と中央銀行のオペレーション
長期金利の代表とされる国債の金利も、短期金利の動向や、将来の金利に対する市場の予想に影響されます。ここで中央銀行が登場します。
もし、市場が国債の金利を上げようとした場合、中央銀行は「国債を買い取る」というオペレーションを行います。中央銀行が国債を買い取ると、その代金として、買い取られた国債の保有者(主に銀行)の中央銀行当座預金口座に、中央銀行が新たに発行したお金が振り込まれます。
これを図解のイメージで考えてみましょう。
政府が国債を発行 ↓ 銀行などが国債を購入(銀行の準備預金が政府の日銀当座預金へ移動) ↓ もし市場金利が上がりそうなら... ↓ 中央銀行が市場から国債を買い取る (銀行の準備預金が増える)
中央銀行がどんどん国債を買い取ることで、市場に出回る国債の量が減り、同時に銀行の準備預金が大量に供給されます。銀行は余った準備預金を運用しようとしますが、他の銀行も準備預金が豊富な場合、お金を貸し借りする際の金利(短期金利)は下がります。そして、この低金利環境が、国債を含めた長期金利にも波及し、金利が上がりにくくなるのです。
さらに、中央銀行は「〇〇%の金利目標を達成するために、必要な量の国債を買い取る」と表明することで、市場に強いメッセージを送ることができます。市場参加者は、中央銀行がその目標を達成するために行動すると信じるため、自ずとその金利水準に収斂していくことになります。中央銀行には、理論上、必要な量の国債を買い取る資金力があるため、この目標達成能力は非常に高いと考えられます。
金利コントロールの目的と本当の制約
政府(中央銀行)が金利を低く保つ目的は様々です。例えば、企業や個人が低い金利でお金を借りられるようにして、投資や消費を促し、経済活動を活性化させること。また、政府自身の国債の利払い負担を抑えることも、実際的な目的の一つでしょう。
MMTの視点では、このように政府は自国通貨建ての国債金利を技術的にコントロールできるため、「金利が上がって国債の利払い費が膨らみ、財政が破綻する」といったタイプの懸念は、通貨発行国には当てはまらないと考えます。金利を上げないという政策を選択すれば、技術的にはそれが可能だからです。
ただし、これは「政府は何でもできる」ということではありません。MMTが考える政府の本当の制約は、金利や財源ではなく、「インフレーション(物価上昇)」と「実体経済の資源(人、モノ、設備など)」です。
政府が支出を増やし、経済がすでにフル稼働に近い状態であるにも関わらず、さらに需要を刺激すると、物価が上昇するインフレ圧力が高まります。また、必要な人手や資材がないのに大規模な公共事業を行おうとしても、物理的に実現できません。金利を低く保つこと自体は可能でも、それが過度なインフレを引き起こしたり、必要な資源がない状況で無理な支出を続けたりすれば、経済は混乱します。
まとめ
MMTの視点から見ると、自国通貨を発行できる政府は、中央銀行の力を通じて、自国通貨建ての国債金利を低くコントロールする技術的な能力を持っています。これは、中央銀行が無限の通貨発行能力を背景に、公開市場操作によって市場の金利水準に影響を与えることができるためです。
したがって、「金利上昇による財政破綻」といった懸念は、通貨発行者である政府にとっては技術的に回避可能な問題であると考えられます。
しかし、これは政府が経済を意のままにできるという意味ではありません。MMTが常に強調するように、政府の支出にはインフレや利用可能な資源という、より根本的な制約が存在します。金利をコントロールする能力はあっても、これらの実体経済の制約を無視した政策は、経済の不安定化を招くことになります。
MMTの考え方を知ることで、国債や金利に関する経済ニュースを、また違った視点から読み解くことができるようになるでしょう。