MMT入門:政府がお金を使える本当の限界? 「資源の制約」とは
政府支出の限界は「財源」ではない? MMTが考える本当の制約
経済ニュースなどで「国の借金が増えすぎているから財政を健全化すべきだ」「〇〇に必要な財源を確保しなければならない」といった議論を耳にすることは多いかと思います。多くの人が、政府がお金を使うためには、どこかからお金を集めてこなければならない、つまり「財源」に限界があると考えているかもしれません。
しかし、現代貨幣理論(MMT)では、この考え方が少し異なります。MMTによれば、自国通貨を発行できる政府にとって、お金を使うこと自体の「財源」には原理的な限界はありません。これは、政府が自身でルールを定めて発行しているお金を、政府自身が「足りない」ということがないためです。では、もし「財源」が限界ではないとすれば、政府がお金を使うことに全く制約はないのでしょうか? MMTはそうは考えていません。政府支出には確かに限界がありますが、それはお金の量、つまり「財源」の限界ではないと説いています。
MMTが考える政府支出の本当の限界、それは「資源の制約」と呼ばれるものです。
MMTが考える「資源の制約」とは何か?
MMTが言う「資源」とは、私たちの経済活動に必要な、人、モノ、技術、情報、時間といった実体的な要素全般を指します。例えば、道路を建設するためには、作業を行う人手(労働力)、ブルドーザーなどの建設機械、セメントや鉄筋といった建設資材、設計や管理を行う技術や知識、そして完成までの時間が必要です。
政府が経済を活性化させたり、公共サービスを提供したりするために支出を増やすと、これらの「資源」に対する需要が増加します。例えば、公共事業を増やせば、建設業で働く人や建設資材が必要になります。教育や医療に支出を増やせば、教師や医師、医療機器などが必要になります。
なぜ「資源の制約」が限界になるのか?
ここで問題となるのが、「資源」には量的な限りがあるということです。私たちの社会が一度に生産したり、提供したりできるモノやサービスの量には上限があります。これを経済学では「供給能力」と呼ぶことがあります。
政府が際限なく支出を増やし、経済全体でのモノやサービスに対する需要が、この社会全体の「供給能力」を超えてしまったらどうなるでしょうか。お金はたくさんあっても、必要なモノが十分に手に入らなくなったり、人手不足でサービスが提供できなくなったりします。
需要が供給を大きく上回る状態になると、モノやサービスの値段が上がりやすくなります。これがインフレーションです。つまり、MMTが考える政府支出の本当の限界は、「お金がなくなること」ではなく、「必要な資源が枯渇したり、資源の奪い合いが激化したりして、社会全体の供給能力を超えてしまい、深刻なインフレを引き起こすこと」なのです。
この関係を図解のイメージで考えてみましょう。横軸に政府支出の増加額、縦軸に物価上昇率を取ります。最初は政府支出を増やしても、経済にまだ活用されていない資源(失業者や遊休設備など)があれば、物価はそれほど上がらずに生産が増えます。しかし、政府支出をさらに増やして、社会の持っている資源をフル活用し、さらにそれを超えて需要を増やそうとすると、急激に物価が上昇し始めます。MMTが考える政府支出の限界とは、まさにこの「急激なインフレが始まる点」よりも手前にあるべきだということです。
インフレは「結果」、資源の制約は「原因」
MMTの視点では、インフレそのものが悪いというよりは、インフレが起きる背景にある「資源の制約」や「供給能力の限界」に目を向けることが重要になります。お金をいくら増やしても、実際にモノを作ったり、サービスを提供したりする「資源」が増えなければ、豊かにはなれません。むしろ、お金だけが増えてモノが手に入りにくくなれば、経済は混乱してしまいます。
したがって、MMTの考え方に基づけば、政府の財政運営で本当に気をつけるべき点は、「財源をどう確保するか」ではなく、「政府支出によって社会全体の資源の使われ方がどう変化するか」「資源が逼迫して供給能力を超えた需要が生み出されないか」ということになります。
まとめ:MMTが示す、お金の使い方の新しい視点
MMTは、政府がお金を使う際の制約は「財源」ではなく「資源」にあることを明確に示しています。これは、お金の量だけを気にするのではなく、私たちを取り巻く人、モノ、技術といった実体経済の状況をこそ注視し、それらを最大限に活用して社会全体の豊かさを実現するための政策に焦点を当てるべきだ、というMMTの基本的な考え方につながっています。
MMTの視点から経済政策を考える際には、「この支出はどのような資源を使うのか?」「社会にその資源を活用する余力はあるか?」「支出によって特定の資源が逼迫し、インフレの懸念が生じないか?」といった、資源の状況を判断することが極めて重要になります。お金の計算だけでなく、社会が持つ「本当の力」、つまり資源をどう活かすかが問われているのです。