MMT入門:現代のお金と昔のお金は何が違う? 金本位制から不換紙幣へ
現代のお金は、かつてのお金と何が違うのか?
日々の生活でお金を使わない日はないでしょう。買い物をしたり、給料を受け取ったり、税金を払ったり。この「お金」について、私たちは普段あまり深く考えませんが、実は今使われているお金の仕組みは、歴史上の仕組みとは大きく異なっています。
特に、現代貨幣理論(MMT)を理解する上で、この「お金の仕組みの違い」を知ることは非常に重要です。なぜなら、MMTが主張する「政府の財政に関する新しい考え方」は、この現代のお金の仕組みに基づいているからです。
かつて多くの国で採用されていた「金本位制」という仕組みと、現在採用されている「不換紙幣制度」という仕組み。この二つのお金の仕組みには、政府の財政運営において決定的な違いがあります。
かつての「金本位制」とお金
まず、かつてのお金の仕組みである「金本位制」について見てみましょう。これは、文字通り「金の量に応じて通貨の価値が決まる」制度です。
金本位制の基本的な考え方
- 通貨と金の交換: 金本位制の下では、政府や中央銀行が発行する紙幣や硬貨は、いつでも一定量の金と交換できることが保証されていました。例えば、「この1円札は金〇グラムと交換できます」というように、お金が「金引換券」のような性質を持っていたとイメージしてください。
- 金の量による制約: 政府が発行できるお金の量は、政府や中央銀行が保有している金の量によって制限されました。金が豊富にあれば多くのお金を発行できますが、金が少なければ発行できるお金も少なくなります。まるで、金という「金庫」に入っている量だけしかお金を刷れないようなものです。
この仕組みでは、政府が財政支出を増やしたいと思っても、保有している金に裏付けられた通貨しか発行できませんでした。金が増えない限り、政府が自由にたくさんお金を使うことは難しかったのです。財政には、金の量という物理的な制約がはっきりと存在しました。
今の「不換紙幣制度」とお金
それでは、現在ほとんどの国で採用されている「不換紙幣制度」とはどのような仕組みでしょうか。
不換紙幣制度の基本的な考え方
- 通貨と金の非連動: 不換紙幣制度の下では、政府や中央銀行が発行する紙幣は、金との交換義務がありません。私たちが普段使っている円やドルは、それ自体が金やその他の資産と交換できることを保証されているわけではありません。お金の価値は、国家がそれを法定通貨として認め、国民がそれを使って取引を行うことによって成り立っています。
- 通貨発行のメカニズム: 政府(厳密には、政府から独立した機関である中央銀行が政府の負債である国債などを引き受ける形や、政府自身の支出に伴う信用創造などを通じて)は、金といった物理的な制約なしに通貨を発行できます。これは、コンピュータ上で数字を入力するだけで、理論的にはいくらでも通貨を発行できてしまうイメージです。図解でイメージすると、金庫の中の金の量ではなく、コンピュータのキーボードを叩く操作によってお金が生み出される、という違いになります。
現代の政府は、かつての金本位制のように「手持ちの金がないからお金が刷れない」といった物理的な制約には縛られていません。法律に基づき、自国の通貨を発行する能力を持っているのです。MMTでは、このような通貨を発行できる主権国家の通貨を「主権通貨」と呼び、この能力に注目します。
MMTが考える「お金の仕組みの違い」の重要性
MMTが強調するのは、この金本位制から不換紙幣制度への移行によって、政府の財政に関する考え方が根本的に変わるべきだ、ということです。
金本位制の下では、政府の財政支出には金の量という物理的な制約がありました。しかし、不換紙幣制度の下では、通貨の発行自体には物理的な制約はありません。つまり、政府が自国通貨建てで財政支出を行う際に、「お金が足りなくなる」「財源がない」といった事態は、技術的には発生しないとMMTは考えます。
これは「政府は無限にお金を使える」という意味ではありません。MMTが考える現代の財政における本当の制約は、「金の量」ではなく「インフレーション」であると主張します。お金を使いすぎると、国の生産能力(人、モノ、サービスなど)を超えて需要が膨らみ、物価が上昇してしまう。これが、現代の政府が財政運営において最も注意すべき点だとMMTは指摘します。
図で考えると、金本位制は「金庫の金の量」が上限、不換紙幣制度は「経済全体の生産能力やインフレ」が上限、という違いになります。
多くの人が「国の借金は家計と同じように返さないと大変だ」「財源がないと政府はお金を使えない」と考えがちなのは、金本位制時代の考え方が無意識のうちに引き継がれている面があるのかもしれません。MMTは、現代の不換紙幣制度という現実のお金の仕組みに立脚して、政府の財政は家計とは全く異なる性質を持つと説明するのです。
この「お金の仕組みの違い」を理解することは、MMTの他の主張、例えば「税金は財源ではない」「国の借金は問題にならない場合が多い」といった考え方を腑に落とすための、最初の重要なステップと言えるでしょう。